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血清マグネシウム濃度高値で脳動脈瘤とくも膜下出血リスク低下を示唆

血清マグネシウム濃度高値で脳動脈瘤とくも膜下出血リスク低下を示唆

最終更新日時 : 2025.10.29

マグネシウムが血管の健康にどのように関わるのか——。 2021年に、コロンビア大学やカロリンスカ研究所などの国際共同研究チームが発表した研究では、 「血清マグネシウム濃度が高めの人ほど、脳血管の動脈瘤やくも膜下出血のリスクが低い傾向がある」ことが、遺伝的解析によって示されました。 これは、マグネシウムと血管リスクの関係を因果的に検証した、世界的にも注目度の高い報告です。 本記事では、その研究概要と私たちの生活への示唆を紹介します。

参考資料:
Larsson SC, Gill D. Association of Serum Magnesium Levels With Risk of Intracranial Aneurysm: A Mendelian Randomization Study. Neurology 97: e341-e344, 2021
PMCID: PMC8362358 DOI: 10.1212/WNL.0000000000012244

 

論文概要

目的

マグネシウム(血清濃度)が、脳血管の動脈瘤(内頸動脈瘤・くも膜下出血リスク)にどのような関連を持つかについて、観察データの交絡を避けるため、遺伝的手法(メンデリアン・ランダム化)を用いて検証しています

方法

  • 欧州系の個人 23,829名を対象とした全ゲノム関連解析(GWAS)から、血清マグネシウム濃度と強く関連する5つの一塩基多型(SNP)を遺伝的手段として採用。
  • 動脈瘤に関する GWAS:79,429名(7,495例の動脈瘤例、71,934名の対照)を対象。
  • 主解析法として「逆分散重み付け法 (inverse-variance weighted)」を用し、遺伝的に予測される血清マグネシウム濃度の上昇が動脈瘤リスクにどう関連するかを推定。

主な結果

  • 遺伝的に予測された血清マグネシウム濃度が 0.1 mmol/L 上昇するごとに、動脈瘤(破裂・非破裂合わせて)リスクのオッズ比 (OR) が 0.66(95%CI:0.49-0.91)となった。
  • 非破裂動脈瘤では ORが 0.57(95%CI:0.30-1.06)という傾向が認められた。
  • くも膜下出血(動脈瘤破裂による出血)では ORが 0.67(95%CI:0.48-0.92)と報告されています。

考察・意義

  • 著者らは、血清マグネシウム濃度の上昇が動脈瘤およびその破裂(くも膜下出血)リスクの低下と関連しているという“遺伝的エビデンス”を提示しています。
  • マグネシウムは血圧調整・血管内皮機能・血管壁の機械的特性に影響を与える可能性があり、こうした作用を通じて動脈瘤形成・破裂のプロセスに関与しうるという仮説が提示されています。

留意点

  • メンデリアン・ランダム化は交絡の影響を軽減する強力な手法ですが、血清マグネシウム濃度そのものを介した介入研究ではないため、「マグネシウムを摂ったから必ずリスクが下がる」と断定はできません。
  • 対象は主に欧州系集団であり、他の民族や地域への適用には慎重を要します。
  • 遺伝的手法では「マグネシウム濃度を反映する遺伝的変異」が使われており、実際の食事や補給によるマグネシウム摂取量・利用可能性・体内動態とは必ずしも同義ではありません。
  • 動脈瘤という比較的稀なイベントに対しての分析であるため、サンプル数・統計的パワー・破裂・非破裂の細分類などで未解明の部分があります。
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