インスリン抵抗性とマグネシウムのお話
インスリン抵抗性が生じる原因
インスリン抵抗性とは簡単にいうと「インスリンの効き具合」を意味します。 つまり膵臓からインスリンが血中に分泌されているにもかかわらず、標的臓器のインスリンに対する感受性が低下し、その作用が鈍くなっている状態を意味しています。
インスリン抵抗性が生じる原因は、いくつかの要因が関係していると考えられ、最も大きな原因として挙げられるものは、肥満と過剰な栄養摂取です。
従来は食生活の欧米化(高脂質・高タンパク・高単純糖質)や肥満、運動不足が指摘され定説となっています。
肥満によって内臓脂肪が増えると、炎症を起こしたり、増大した脂肪からインスリンの働きを邪魔する物質が生産されるようになり、インスリン抵抗性が起こると考えられています。
他にも、ストレスや加齢、遺伝などがインスリン抵抗性の原因になる可能性があります。
ストレスを感じると、血糖値を上げるアドレナリンなどのホルモンが増えることで、インスリンの分泌を抑えたり、インスリンの効果を弱めたりします。
加齢によって細胞の機能が低下するとインスリンの受け入れが悪くなり、インスリン抵抗性の原因になる可能性があります。
遺伝は、インスリンの働きに関係する遺伝子に異常があるとインスリン抵抗性が生まれやすくなります。
このように、インスリン抵抗性が生じる背景には様々な原因が考えられます。
日本における糖尿病患者の割合
糖尿病は、血糖値が高い状態が慢性的に続く病気で、高血糖状態を放置すると高血圧や心臓病のリスクを高めるだけでなく、失明や透析などの重い合併症を引き起こすことがあります。
糖尿病は「Ⅰ型」と「Ⅱ型」に大別されます。
Ⅰ糖尿病とは
Ⅰ型糖尿病は、何らかの原因によってインスリンが分泌しない、または、インスリンが枯渇することで発症する糖尿病。
Ⅱ型糖尿病とは
2型糖尿病は、インスリン分泌の低下、インスリン抵抗性によるインスリンの作用不足によって発症する糖尿病。
日本人の糖尿病患者数は、1997年に690万人だったのが、2012年の調査では950万人の糖尿病が疑われる人がいると推計され、2016年には初めて1000万人を超えました。
日本における糖尿病患者の95%以上が「Ⅱ型糖尿病」と言われており、インスリン抵抗性を引き起こす原因は主に肥満や運動不足によるものとされていますが、Ⅱ型糖尿病患者のほとんどが肥満や運動不足かというと、必ずしもそうとは限りません。
日本人は、欧米人と比べて、同じBMI(体重kg ÷ (身長m)2)でも、脂肪肝や耐糖能異常を起こしやすく、糖尿病になりやすいと言われています。
また、日本人は数千年にわたって穀物を主食に野菜や海産物を食べてきた農耕民族であり、高脂肪食を食べ続けてきた欧米人(狩猟民族)に比べて遺伝的にインスリンを分泌する能力が低く、Ⅱ型糖尿病になりやすいということが考えられます。
マグネシウム摂取量の減少と糖尿病の有病率増加の関係
日本においては、1960年代半ば以降から糖尿病の有病率が急激に増加しています。
この背景には、日本人が遺伝的にインスリンの分泌能力が低いことが原因の1つとして挙げられますが、それだけでなく、マグネシウムを多く含む大麦や雑穀などの穀物の摂取量が激減した時期とピッタリ重なります。
つまり、日常的に穀物などの食事からマグネシウムを摂取しなくなったことと、Ⅱ型糖尿病の発症が深く関係していると考えられるのです。
マグネシウムがインスリン抵抗性を下げた臨床研究結果
穀物などの食事からマグネシウムを摂取しなくなったことと、Ⅱ型糖尿病の発症に関係性があることを裏付けるために、軽症の糖尿病患者を対象とした臨床研究が行われました。
臨床研究の内容
軽症の糖尿病患者9名を対象に、天然濃縮マグネシウム液(MAG21)を使い、300ml中に300mgのマグネシウムが入った飲み物を作成。
1日1本、1ヵ月間にわたり自由に摂取してもらった。
臨床研究の結果
マグネシウムを補充することでインスリン抵抗性が改善されることが確認されました。
他にも、血圧の数値に変化が見られ、中性脂肪の値が低下、脂質代謝の異常が改善されることが明らかになり、マグネシウムには酵素を活性化する働きがあることから、脂質分解酵素が活性化したためと考えられます。
この研究結果は、2003年にオーストラリアのケアンズで開かれた「第10回国際マグネシウムシンポジウム」で報告され、翌2004年にはアメリカの栄養学専門雑誌に掲載されました。
その後、マグネシウムと糖尿病の研究が加速したことで「マグネシウム摂取量が少ない群からの糖尿病発症リスクが多い」という報告や、「マグネシウム摂取量が多いと糖尿病発症リスクが10%~20%減る」ということが明らかになり報告されています。
別の研究では「糖尿病の発症率最が最大47%減る」という報告や、「マグネシウム摂取量が1日100mg増えるごとに糖尿病の発症リスクが14%低下する」など、主に国外で次々と研究成果が発表されています。
このような研究によって、マグネシウム不足が糖尿病の発症と密接に関係していることが明らかになり、WHO(世界保健機関)でもⅡ型糖尿病とマグネシウムの関係が認められるに至ったのです。
インスリン抵抗性への対処
インスリン抵抗性は、日々の暮らしの中でちょっとした心がけで予防・改善することができます。
健康な体を維持するためにも、次のことを意識的に取り入れましょう。
体重を適性に保つ
肥満はインスリン抵抗性の最大の原因なので、BMIや体脂肪率を測って自分の理想的な体重を目指しましょう。
運動を習慣化する
運動は筋肉におけるインスリン感受性を高めるのに効果的です。
特に筋トレは筋肉量を増やして基礎代謝を上げるのに効果的で、有酸素運動は血糖値を下げる効果があります。
日常的に運動を取り入れる場合は1日に30分以上、週に3回以上を目安にしましょう。
睡眠を十分にとる
睡眠不足はインスリン抵抗性を悪化させる可能性があります。
1日に6~8時間の睡眠を心がけましょう。
ストレスを適切に管理する
ストレスはインスリン抵抗性に影響するホルモンの分泌を変化させます。
リラックスできる方法を見つけてストレスを溜め込まないように解消しましょう。
バランスの良い食事を摂る
糖質、脂質、タンパク質のバランスを考えて食事を摂ることが大切です。
過剰な糖質の摂取、精製された白い炭水化物、甘い飲料は控え、脂質は良質なものを選び、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は摂り過ぎないようにしましょう。
タンパク質は筋肉の材料になりますが、過剰に摂り過ぎるとインスリン分泌を促すので注意しましょう。
必要な栄養素を補う
マグネシウム、亜鉛、ビタミンD、アルギニン、αリポ酸などは、インスリン感受性を高める効果がある栄養素です。
特にマグネシウムは臨床研究でインスリン抵抗性を下げることが確認され、認められている栄養素です。
これらの栄養素は食事から摂ることができますが、充分な量を摂取する事は、なかなか難しい灯されています。不足している場合はサプリメントなどで補いましょう。
医師に相談する
インスリン抵抗性を改善するには、薬を服用することも選択肢の一つです。インスリン抵抗性は糖尿病だけでなく、心臓病や脳卒中などのリスクも高めます。インスリン抵抗性があるかどうか、どの程度あるかなどは個々で異なるため、主治医に相談して早めに対策をとることが大切です。
インスリン抵抗性は、糖尿病や動脈硬化などの病気のリスクを高める要因です。インスリン抵抗性を予防することは、健康を維持することにも繋がります。自分自身の体の状態について知ることはとても大事な事なので、糖尿病の原因がどのような機序によるものなのか、あるいは、インスリン抵抗性があるかどうか、どの程度あるかなどは個々で異なります。ぜひ主治医に気軽に相談してみてください。